王太子の揺るぎなき独占愛
そんな母親は、サヤの憧れであり誇りでもある。
細かいことに動じず家を守り王家への忠誠を誓うカーラを尊敬している。
もちろん、夫婦仲がとてもよく、今もふたりきりの時間を楽しむ姿も羨ましい。
「最近母さんが顔を見せないから、ロザリーさん寂しがってたわよ」
サヤも紙袋からパンをひとつ取り、口にする。満腹になるまでシチューを味わったというのに、おいしい匂いには勝てないのだ。
「そうね、そろそろこっそり行こうかしら。だけど城下におりるときって警護がつくから面倒なのよね。あ、ファロンについてきてもらえばいいわね。うん、そうしよう」
自分の思いつきにニヤリと笑い、明日にでもロザリーの店に行こうと考えるカーラの明るさと行動力が、サヤは羨ましい。
人付き合いが得意でなく、行動力もない自分は本当にカーラの子どもなのだろうかと、生まれてからこれまで何度も頭に浮かんだ悩みにサヤが小さく笑ったとき、部屋の外からバタバタと大きな音が聞こえた。
なんだろうとサヤとカーラが顔を見合わせたと同時に居間の扉が勢いよく開いた。
そして、そこには顔を真っ赤にしているダスティンがいた。
「サ、サヤは帰っているか」
「父さん、ど、どうしたの」
「あなた、そんなに息を切らせるほど走ったら体に悪いっていつも言ってるのに」
両手を膝に置いて荒い息を整えるダスティンは、駆け寄ったサヤとカーラに体を支えられ、ソファに腰を下ろした。
そして傍らに立つサヤの手をつかむと、苦しげな呼吸を鎮めながら口を開いた。
「サ、サヤ……、お前の」
「え? 私の?」
「そうだ、お前の結婚を、陛下がお決めになったんだ」