王太子の揺るぎなき独占愛



 あと何回、全速力で森を走れるだろう。

 結婚したあと、これまでのように自由に森に来ることができるとは思えない。
 王族の一員となり、重い責任と義務を果たすために精進する毎日が待っているはずだ。
 森の管理を第一に考える日々は終わりを告げるだろう。

 カサカサと音を響かせながら、サヤは森を駆け抜ける。
 屋敷を出て王家の森に入った途端、我慢できず走り出したのだが、ここ最近抱え続けているストレスを振り払うように必死で走る。

 頬を切る風が心地いい。
 もうすぐ新しい年を迎える森は、緑よりも茶色が目立っている。

 夏の濃い緑もいいが、どちらかといえば、サヤは茶色い森が大好きだ。温かみを感じる茶色の中にいると、ホッと心が落ち着くのだ。

 年が明ければ森は雪化粧を施され、場所によっては樹氷の森に変化する。
 湖に舞い落ちる雪は幻想的で、寒さを忘れていつまででも見ていられるが、そのころには、サヤは今とはまったく違う生活を過ごしているはずだ。

「いやじゃないけど……やっぱり、いやだ」

 枯葉が落ちた道を走り続けたサヤは、森の奥の温室の前で止まった。
 どうにか息を整える。

 簡素なワンピースの上に毛皮の裏打ちをしたマントを羽織っているのだが、体を休めると一気に熱くなった。
 無造作にマントを脱ぐと、温室のドアを開け、よろよろと中に入る。

 森に雪が降り寒さが今よりも厳しくなれば、火で温めた石を温室のあちこちに置き、室内を温めるのだが、今はまだ行っていない。
 ビニールで覆われた室内は、外気を遮断するだけで温かいのだ。

 この温室では薬草は一切育てられず、あらゆる花が咲いている。
 王家の慶事に必要となる花を育てているのだが、薬草同様ルブラン家が管理している。
 サヤも時折訪れ、むせかえるような甘い香りと、彩り豊かな室内を楽しんでいる。
 温室の奥にはサヤがとくに大切にしている鉢植えの紫のビオラがある。
 寒さに強い品種だが、朝の冷え込みを考え、最近温室に移したのだ。


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