王太子の揺るぎなき独占愛



「私も、ビオラのように強くなりたい」

 サヤは目の奥が熱くなるのを我慢し、慌てて目を閉じフルフルと首を振った。

 寒さに強く、小さな花弁を大きく広げて鮮やかな色を見せつけるビオラのようになりたいが、今の自分はほど遠い。

「私も寒さには強いんだけどな……」
「だからと言って、そんな薄着でなにをしてるんだ」

 しゃがみ込むサヤの頭上に、ため息とともに低い声が響いた。

「温室といっても、外気が入ってこない程度のものじゃないか。王家の健康管理を任されている者の行動とは思えないな」
「レオン殿下っ。どうしてここに」

 サヤは焦って立ち上がった。
 目の前には呆れた顔のレオンがいた。
 スラリと背が高いレオンは、くるぶしまである紺色の長衣を着ていた。
 そしてその手には、さっきサヤが脱ぎ捨てたマントがあった。

「ちゃんと温かくしておかないと、体調を崩して王宮に移ってきた途端寝込むぞ」
「あ……はい。すみません」
「しばらく会えなかったが、王宮に移る準備はすすんでいるのか?」
「はい。ジークさんが何度も我が家にお越しくださって、アドバイスをくださってますので、順調……だと思います」

 レオンの言葉に、サヤは慌てて頭を下げた。
 突然現れたレオンに驚かされ、どうしていいのかと、あたふたする。

 忙しいレオンとサヤが会うのは久しぶりで、十日ほど前に王宮ですれ違いざまに片言話した以来だ。
 ジュリア王女の結婚が近く、レオンはここ一週間、彼女の嫁ぎ先である隣国のラスペード王国を訪問していたのだ。
 これまで蝶よ花よと大切に育てられ、子どもっぽいわがままが残るジュリア王女を他国に嫁がせることは、王家にとっては大きな決断だった。

 それでも、ファウル王国とラスペード王国の国境をまたぐ状況で発見された大きな鉱脈を、両国で平等に取り扱う約束の証として、結婚が決められたのだ。

 本来ならジュリア王女の結婚式が終わり、国内が落ち着いたころを見計らって王の退位と王太子の即位を発表するべきなのに、どうしてこの忙しい中、自分たちの結婚が決まったのだろうかと、サヤはずっと疑問に思っていた。
 
 一度ジークに聞いてみたが、普段と変わらぬ愛想のいい笑顔で「深い理由はないと思いますよ」と答えが返ってきた。本当にそうなのだろうかと、サヤは今でも思っている。

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