王太子の揺るぎなき独占愛
首筋にレオンの吐息を感じながら、サヤは深呼吸をした。
その姿を遠目から眺めるだけで精一杯で、決して自分との接点が生まれるとは思いもしなかった人。
その人が今、サヤを抱きしめ子どものように拗ねている。
体中に伝わるレオンの体温以上にサヤの体は熱いが、初めて見せられたレオンの姿がうれしくて心も温かくなる。
「子どもたちは、こんな風にサヤを抱きしめるんだろ? で、結局最後は薬を飲んでサヤに褒めてもらうんだよな。あー、むかつく」
舌打ちでもしそうなレオンの口調に、サヤはくすりと笑った。
真面目に公務に励み、滅多に感情を表に出すことのない優秀な王太子。
それが周囲からのレオンの印象だが、今のレオンにそんな印象はまるでない。
サヤが手を焼いている子どもたちのように、というより子どもたちよりも子どもっぽい寂しがり屋の男の子のようだ。
サヤを抱きしめたままのレオンは、「あー、ムカつくし、腹が立つ」とぶつぶつ言いながら、額をサヤの肩にこすりつけた。
「そう言われても、お薬を患者さんに用意するのは私の仕事ですし、子どもたちを抱きしめるのは、嫌じゃないんです。むしろ、私の手からならお薬をちゃんと飲んでくれるなんてうれしいです」
「じゃあ、俺にも」
「え?」
「結婚したら、俺にも飲ませろ。王の健康を管理するのは王妃の仕事だろ? 子どもたちばかりかまってないで、俺のことを第一に考えろ」
サヤは、温室の中の温度が上がったような気がした。
どうして今レオンが自分を抱きしめているのかわからないし、どうしてここまで拗ねているのかその理由が思いつかない。
それでも、レオンが腕の力を緩めることなくサヤを抱きしめているのは夢ではない。
レオンとサヤの結婚は、拒むことができない陛下からの絶対的な命令だ。
王太子といえど、陛下の命令に逆らうことは許されないのだ。
だから、結婚許可証が家に届き婚約が調ったときにも、レオンは気が進まない結婚を渋々受け入れたのだとサヤは思った。
渋々だとしても最低限の礼を尽くし、サヤをないがしろにしたり冷たくすることはないだろうが、サヤとの結婚を心から望んでいるわけではないと、思っていた。