王太子の揺るぎなき独占愛


 そして、言わなくていいことを言ってしまったと気づき、空気を変えるようにぽつりとつぶやく。

「それに、昼寝は、それを理由にお前に会え……いや、それはいいんだが」
「え?」
「いや、なんでもない。ただ、あのクスノキの下で昼寝をすると、よく眠れたんだ。ジュリアも城を抜け出して、俺のとなりで刺繍に夢中だったな」

 レオンは懐かしそうに笑った。

「そういえば、ジュリア様の刺繍は有名ですね」

 王女ジュリアの刺繍の腕はかなりのもので、城の中にはジュリアが刺繍をするための部屋があり、糸や針などの道具をはじめ、貴重な布がいくつも用意されている。

 鉱石とともに製糸業も発達しているファウル王国では、鮮やかな模様が刺繍された洋服やカーテンなどが他国との貿易の主力商品となっている。

 その中でも、腕がたしかなジュリアが手掛けた作品は人気が高く、先日も半年をかけて制作したというベッドカバーがかなりの値で隣国の貴族に買われた。

 嫁ぎ先のラスペード王国の王宮内でも、ジュリアのための刺繍部屋が作られ、彼女から刺繍を習いたいと願う貴族の娘たちがその日を楽しみしている。

「ジュリアは昔から勉強では苦労ばかりしていたが、それを補ってもあまりある刺繍の才能があったから、陛下も妃殿下もあまり心配してなかったな……。あのふたりはお互いに夢中で俺たちのことは二の次だったし」
 
 肩を揺らして笑うレオンの言葉に、サヤは抵抗なく頷いた。
 国王夫妻の強い愛情は有名で、国民の誰もが羨ましく思っている。
 もちろん、サヤも国王夫妻の関係に憧れていて、レオンともそうなりたいと期待している。
 願望だと言ってもいい。
 正式に婚約が調ってから初めて顔を合わせている今、レオンも幸せな未来を期待しているのだろうか。


< 59 / 261 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop