王太子の揺るぎなき独占愛
『ダスティン、ジュリアを許してやってくれ。母さんの体調が悪くて、ジュリアも心配してるんだ。思わず母さんの名前を彫ったようだけど……。二度としないように言って聞かせる』
レオンの背に隠れ、ひくひく泣き続けるジュリアは「もうしない。ごめんなさい」とつぶやき、レオンの服を小さな手で握りしめていた。
傍らに控えている侍女たちは、心配しながらおろおろしていた。
すると、ダスティンは木に彫られた名前を確認しジュリアの目線に合わせて膝をついた。
『ジュリア様が字のお勉強を始めたときに、家庭教師に頼んで最初に書き方を教えてもらったのが王妃殿下のお名前なのですよね?』
『そうよ。どうして知ってるの?』
『その頃、陛下にお会いしたんですが、どうして自分の名前を最初に書いてくれないんだと拗ねてらっしゃったのですよ。ジュリア様にとって妃殿下のお名前はそれほど特別な名前なのかとぶつぶつおっしゃってました』
優しく話すダスティンに、ジュリアの気持ちは次第にほぐれていった。
『今も、妃殿下のお名前は特別なのですね。とてもお上手に書いてらっしゃいます』
『うん……お母さまのお名前、大好き。シオンって何回も書いて練習したの』
泣きはらした真っ赤な目でそう言ったジュリアに、ダスティンは何度かうなずくと、立ち上がってレオンにひとつの提案をした。
『どうでしょう。このままだと、どうして妃殿下の名前だけなんだと陛下はまた拗ねると思います。王太子殿下が陛下の名前を彫られてはいかがです?』
いたずらを思いついたようにニヤリと笑い、ダスティンは肩をすくめた。
『ふたりで陛下と妃殿下の名前を彫れば、もう共犯です。陛下も自分の名前を見てお喜びになるはずです』
ダスティンの言葉に、初めは躊躇していたレオンも、それを期待しているようなジュリアの視線を感じ、そうすることにした。
今も木に残っているふたつの傷。
何年も経ち、多少薄くなったそれは『ラルフ』『シオン』という名前だ。
足元にあった、先が鋭い枝を使って彫ったのだが、ダスティンの言うとおり、その後それを目にした陛下はかなり喜んでいた。
王妃の体調も回復し、家族四人で静かにその名前を眺める時間は特別で、国王一家にとって、今でも忘れられない時間だった。