王太子の揺るぎなき独占愛



 レオンはふたつの名前を指先でそっとたどる。
 年を重ねるにつれて王太子としての責任も大きくなり、悩みも増えたが、簡単にそれを口にするわけにはいかない。
 吐き出せない思いを昇華するために、何度もここに来ては、幸せだった時間を思い出し、この先もずっと幸せが続くよう、公務に励まなければと気持ちを高めていた。

「……俺がここにいるとき、サヤは俺を遠くから心配そうに見るだけで、いつもそっとしておいてくれたな」

 振り返ったレオンの言葉に、サヤはハッとした。

「気づいてらっしゃったのですか?」
「ああ。王族はみな、辺りの気配には敏感だからな。サヤが静かに立ち去る後ろ姿を何度も見たぞ」
「そ、それは……失礼いたしました」

 レオンに気づかれる前に立ち去っていたと思っていたサヤは、慌てて頭を下げた。

「殿下の大切な時間を邪魔してしまい、すみません」
「いや……。そっとしておいてくれてありがたかったが、たまにはゆっくり話をしたいと思うときもあったな……」

 レオンはサヤの隣に戻ると、クスノキを見上げた。

「サヤがルブラン家の誰よりもこの森を愛し大切にしているのはわかってるんだ。一日中……というより一生この森の世話をしたいと思っているのもわかってる」

 レオンはサヤに顔を向けると、切なげな表情を浮かべた。

「王族のひとりとして、その思いには感謝しているし、ありがたいとも思っているが、サヤの森への一途な気持ちを、俺にも向けてもらえないか?」

 レオン声には、サヤが断ることを許さないとでもいうような強さが滲んでいる。
 サヤの両肩に手を置いて見つめるレオンから、サヤは目が離せない。

「俺が王位に就き、この国を率いていく傍らにいてもらえないか? 王家の森に注いでいた愛情を俺に注ぎ、ともに生きてほしい」
「殿下……」

 レオンはサヤの顔にかかっていた髪をそっと梳くと、身にまとう長衣の胸もとに手を差し入れた。

「これは、最近発見された鉱脈で採れたエメラルドだ。サヤが王妃に内定してすぐに、加工してもらった」
「え……? エメラルド?」

 レオンが胸元から取り出したのは、エメラルドのネックレスだった。

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