王太子の揺るぎなき独占愛
サヤはレオンが気を悪くしないよう、丁寧に答えた。
決してレオンが嫌いなわけでも、レオンとの結婚に抵抗しているわけでもない。
ただ、結婚後のレオンとの関係と、王妃としての役割を十分に果たせるのかどうかが不安なのだ。
レオンとの結婚を望む女性はたくさんいる。それも、子どものころから王妃教育を受けて、王妃になる覚悟と自信を持っている素敵な女性がたくさん。
その筆頭が、イザベラだ。
ルブラン家本家の娘イザベラは、女性騎士として活躍する傍ら、王家の歴史を学び、礼儀作法も身につけている。
舞踏会では魅力的なダンスを披露し、人当たりの良さも手伝って外交でもその才能を披露している。
性格も立場も違うサヤとイザベラだが、イザベラがジュリアの警護をしていることで、王城でふたりが言葉を交わす機会もある。
そのたび、サヤは自分とイザベラの違いを実感していた。
自分の思いに忠実に生き、せいいっぱい楽しく生きようと努力をしているイザベラには決して敵わないと、あきらめていた。
そして、レオンにはイザベラのような女性がふさわしいのだろうと思っていた。
だから、自分は王妃の器ではなく、レオンを支えるどころか足を引っ張ってしまうのではないかと不安でたまらないのだ。
「王妃の器……か」
サヤの言葉を静かに聞いていたレオンが、口を開いた。サヤを見つめていた視線を外し、再びクスノキを見上げた。
「俺には、そんなものどうでもいいんだけどな」
「どうでもいい……」
「だってそうだろ? 俺は王太子として生まれて、その記念にこのクスノキが植樹された。そのとき、俺に王としての力があるのかなんて誰も考えなかったはずだ」
サヤは小さくうなずいた。
レオンが生まれたとき、後継者が生まれたというだけで、王族だけでなく国民は歓喜した。
王としての責任をしっかりと果たせる器かどうかなど、誰も考えなかっただろう。