王太子の揺るぎなき独占愛



『今認めてもらえなくても、いずれ王位に就くときには必ずサヤを王妃として迎えます。できれば今、陛下に退位していただいて、サヤが二十歳になる前に結婚したかったのですが。無理なら待つだけです』

 ラルフは、その言葉に慌てた。

『おいおい、俺が死んじゃうのを待つような言い方はやめてくれよー。寂しいじゃないか』
『それは気づかず、すみません』
『まあ、いい。それより、わかってるか?』

 それまでの軽い口調に代わって、低く重い声でラルフは問いかけた。
 椅子に座り直し、背を伸ばすと、探るようにレオンを見た。
 厳しげに細められた目から、どんより暗い光が揺れる。

『王妃としてサヤを迎えるということは、彼女にお前の命も託すということだ。王妃だけが知らされる毒のレシピは、重荷以外のなにものでもない。単なる夫婦以上に互いを信頼し愛し合わなければ、その重荷には耐えられない。お前よりも王妃……サヤが苦しむことになる』
 
 わかっているな? と視線で問われ、レオンは引き締まった表情でうなずいた。

『王妃が背負う毒のレシピの重荷を重荷のままにしておくつもりはありませんから。そのことを忘れてしまうくらい愛して、そして国をいっそう発展させるつもりです』

 冷静に答えるレオンの態度から、ラルフは彼が本気でサヤとの結婚を望んでいると理解した。
 ため息を大きく吐き出すと、重苦しい表情を振り払うように首を何度か振った。

『サヤちゃんも面倒な男にロックオンされたな。あれほどかわいければ王家に嫁ぐより幸せになる道はたくさんあるだろうに……。まあ、いっか』

 ラルフは踏ん切りをつけたようにニヤリと笑った。

『最近シオンの喘息の発作が頻繁に起こって心配だから、退位してふたりで南の離宮に移ることにする。のどかな郊外で今まで以上に彼女を愛してふたりで楽しく過ごせば、喘息なんてすぐに治るだろう』

 我ながらいい考えだと弾んだ笑い声をあげ手を叩いたラルフに、レオンは心配そうに口を開いた。


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