王太子の揺るぎなき独占愛


『母さん……いえ、王妃殿下の体調はこのところ落ち着いていると聞いているのですが。まさか……』
『ん? 落ち着いているし心配することはないが、そうだな。子どものためにひと肌脱ぐ親の言葉は、どれも真実なんだよ』

 ウキウキした表情でそう言ったラルフの心情を、レオンは察した。
 王妃の体調を考慮しての、予定よりもとんでもなく早い退位。
 それは、これまでの王妃への溺愛ぶりを考えれば誰もが納得する理由だ。
 だが、王妃の喘息は最近では落ち着いていて、発作は起きていない。
 愛する息子のために、ラルフが一芝居打つことにしたのだ。

『考えていたよりも早い退位だが、体が衰える前にシオンとの時間を少しでも多く持つのも悪くないな。旅行にも行ってみたいしな』

 レオンのために早い退位を決めたラルフだが、結局、それはラルフにとっても好都合で、優秀な息子にさっさと王位を譲り、愛する妻とイチャイチャする未来を想像し、緩む頬をどうすることもできなかった。

『陛下……ありがとうございます』

 ホッとし、頭を下げるレオンのことなどどうでもよく、ラルフの頭の中はすでに、離宮での愛ある毎日でいっぱいだった。

 レオンは父である王の緩み切った顔を見ながら、いずれ自分とサヤも幸せな退位の日を迎えたいと、心から思った。

毒のレシピという、王妃に課せられる重荷に負けることなく、長い月日をともに過ごしたあとで……。



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