王太子の揺るぎなき独占愛

 即位の日程が決まり、あわせて結婚式の準備も進んでいる。

 自ら望み、王太子位を賭けてでも手に入れたいと思っていたサヤが、ようやく自分のものになる。

 レオンは自室のバルコニーから眼下の庭園を眺めながら、ホッと息をついた。

 王城の南側には手入れが行き届いた庭園があり、あらゆる花が咲いている。
 庭園から王家の森に続く石造りの道の脇にはいくつかのベンチがあり、使用人たちに交じってサヤが楽しそうに話し込んでいる。
 もともと王族の健康管理を担当していたサヤを知る使用人は多く、誰にでも変わらぬ態度で接するサヤは王宮内でも人気があった。
 当然ながら、彼女が王妃に決まったとき、そのことを喜ぶ声が溢れた。
 今もサヤを慕う侍女数人が、サヤとともに花の世話をし、合間に休憩をとっているようだ。

「なにがそんなに楽しいんだ?」

 レオンは面白くなさそうに顔をしかめた。
 サヤが楽しそうにしているのはうれしいのだが、そんな楽しげな顔は自分ひとりに見せろよと、子どもじみた文句も口に出る。

「やっぱり、サヤがいちばんキレイだな」

 甘い声でつぶやくと、レオンは満足そうに頷いた。

 正式に婚約してすぐ、サヤの生活は一変した。

 王家の森の管理はダスティンをはじめルブラン家の女性たちに任せ、王妃教育に明け暮れる日々が続いている。
 王家の馬車によって朝早くから王城を訪れ、日暮れまでを過ごす。
 行儀見習いといえば聞こえはいいが、王妃になるつもりのなかったサヤはこれまで王妃教育をなにひとつ受けてこなかった。
 習得しなければならないことが山ほどあり、サヤへの教育はかなり厳しいものとなっている。

 ファウル王国の歴史に始まり王族の系譜。
 王族としての礼儀作法はもちろん、周辺国との関係など、学ぶべきものは数限りない。



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