王太子の揺るぎなき独占愛


 その中でもサヤが一番手こずっているのはダンスだ。
 これまで社交の場に出席する機会が少なかった彼女はダンスが苦手だ。
 小さなころからお妃教育を受けているルブラン家の女性の多くはダンスが得意なのだが、サヤは自分が王妃に選ばれると思ったこともなく、練習してこなかったのだ。
 専門の先生から厳しいレッスンを受け、最近ようやくキレイなポジションがとれるようになってきた。

 レッスンのときにはレオンが相手となってサヤの手を取るのだが、これは自分以外の男性がサヤの体に触れることにレオンが我慢できないからだ。

 もちろん、サヤに教えているのは女性の先生だ。

「今日の勉強はすべて終わったんだな」

 なにを話しているのかわからないが、サヤが手を叩きながら笑っている様子を見ればレオンの気持ちは穏やかになる。

 真面目で努力家。
苦しみを顔に出さず口にもしないサヤだが、王妃になるその日に備えて必死の思いで努力をしているのがわかるだけに、レオンはああして侍女たちと笑い声をあげるサヤの姿にホッとした。
 王家の森でこの先も過ごしたいと思っていたはずのサヤとの結婚を強引に決め、王命という、脅迫にも似た手段を使ってサヤを自分のものにした。
 森で遠目から顔を合わせてもすっと姿を消す彼女に、もう我慢ができなかったのだ。

 レオンを思いやってのことだとわかっていても、背を向けるのではなく、互いの距離を縮め、言葉を交わしたいと思っていた。

 ときにはサヤがレオンの存在に気づかず、彼女が薬草畑で膝をつき、研究をしているところを眺めたり、天候が荒れた翌日などは悲壮な顔で森の中を確認してまわる姿を目にした。
 王太子としての緊張感から逃れ、気持ちを解放させるために森に行っていたレオンだが、次第にサヤの顔を見るために森に通うようになっていた。
 
森のこと以外に興味はないとわかる姿を何年も見つめ続け、あきらめかけたときもあったが。

見た目だけでなく真面目で気立てのいい彼女にいっそう惹かれた。

 
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