王太子の揺るぎなき独占愛
国王ラルフに一年以内に退位してほしいなどという、今思えば反逆罪に問われてもおかしくないような申し出をした。
サヤを愛する気持ちゆえの暴走だったが、思い返せば冷や汗ものだ。
今ではラルフは妻とふたりで過ごす離宮の内装工事のことで頭がいっぱいで、新しく用意するベッドは見たこともないほど大きいものを用意したと自慢している。
なにもかもが順調に進んでいるが、ひとつ気がかりなことがあった。
ジュリアが嫁ぐことが決まっている隣国、ラスペード王国と共同で採掘を始めた鉱山を狙って、怪しい男たちが侵入しているというのだ。
交易の拠点としてあらゆる国から人が集まるラスペード王国では、月にいちど大きな市が開かれるのだが、商人たちから市の参加料を徴収し、それを国の財源に充てていた。
ファウル国側は山脈が連なり、移動には不向きなのだが、それ以外の三か国と接する場所は平野が続き、行き来しやすい。
そんな立地の良さゆえ、市が開かれ交易が発展してきた。
しかし、いざ大きな鉱山が発見されても、それを採掘し商品として動かす技術はラスペードにはなかった。
一方、ファウル王国は昔から国内で発見される鉱山を採掘してきたおかげで、その技術力はかなり高い。
ラスペードはファウル王国との国境辺りに広がるその鉱山の採掘をファウル王国に任せようと考えた。
国の周囲を山脈に囲まれているファウル王国は、採掘と加工の技術は高いがそれらを売る際にはラスペードの力を借りていた。
ファウル王国で採れる宝石の質の良さと優れた加工技術は有名で、市に商品が並べばたちまち売り切れるほどだ。
ゆえに、それらの商品を目当てに集まる商人も多く、ラスペードは新しい鉱山で採れた宝石をファウル王国に採掘と加工を任せ、それをいったん買い上げ、市で目玉商品として売り出そうと考えたのだ。
両国の弱点を補いあうその考えにラルフをはじめファウル王国の王族たちも賛同し、採掘が始まった。
採掘された宝石はファウル王国国内の加工場に運ばれ、丁寧に加工される。
ラスペードの市場に商品が並ぶまでにはまだ時間がかかるが、両国の計画は順調に進んでいた。
そして、両国の絆をいっそう強いものにするために、ラスペードの第三王子ステファノとジュリアの結婚が決められたのだ。