君のことは一ミリたりとも【完】
彼女、河田亜紀さんは当時よりも大人びた目付きで俺を睨んだ。
「話し掛けないでくれる?」
「一人で暇そうにしていたから可哀想だなって」
「必要ないから、どっか行って」
相変わらず素っ気ないなぁとその感じでさえも懐かしく思えてしまう。
「久しぶりだよねぇ、何年振りだっけ? 高校卒業してからだから8年くらい?」
「……」
「ねぇねぇ、無視? 俺が自分の時間使って話し掛けてくれてるのに」
「結構です、さようなら」
「ちょっと待ってよ」
逃げようとする彼女の細い左手首を掴むと一瞬怯んだ様子を見せる。
そんな彼女にニコリと微笑むと自分の中でむくむくと加虐心が芽生え始めた。
「その服、綺麗だね。雰囲気変わってるから初め気が付かなかった」
「っ……気持ち悪い! 手放してよ! 蕁麻疹出るから!」
「えー、河田さんもしかして俺に対してなんかアレルギーでも持ってんの?」
「生理的に受け付けないの!」
嫌がることを知っていて声に出したが効果は抜群らしく、思わずニンマリと顔を綻ばせてしまった。
しかし当時はショートカットだった髪型から髪の毛を後ろで括れる程の長さになり、肌も白くなり大人っぽいメイクをしている彼女は高校時代とは別人に見えた。