君のことは一ミリたりとも【完】
人って8年あれば変われるんだなぁと何だか嬉しくなって笑っていると強い力で腕を振り解かれた。
「アンタこそ絶対に来ないと思った、だから来たのに」
「残念でした。ていうかどうせ河田さん暇でしょ、俺の相手してよ」
「は? なんで」
「まぁ正直話しててもイライラしか生まれないけど、顔は意外と好みだからさぁ」
褒めたつもりだったのに彼女はワインを口へと運ぶと「気色悪い」と言葉を漏らした。どうやら俺は向こうからも嫌われているようだった。
「(こんな女のことをいつも思い出していたとか笑える)」
ただ気になるのはどうして卒業式の日で涙を流していたのかだった。俺の知っている限り、彼女は人まで泣くような性格ではない。むしろ、泣いたところなど見たことがなかった。
何があそこまで彼女の心を揺さぶったのだろう。いつも口が悪くて俺に楯突く彼女しか知らなかった俺からしたら、少し複雑に思えた。
「(河田さんってさ……)」
まだ優麻ちゃんのこと好きなの?
そんな下世話なことを知りたくなってしまう。
すると鞄からスマホを取り出した彼女がその画面を見て静かに目を見開いた。
そして一瞬だけ口元を緩ませたのが目に入った。
そんな表情を見るのは初めてだったから、思わず誰からの連絡だったのか気になってしまった。
「悪いけど私もう行くから」
「え、そうなんだ」