君のことは一ミリたりとも【完】
ポケットに入ったスマホを手に取り、朝に来たメッセージに変身をしようと心に決める。
すると私たちの目の前を若いカップルが通り、思わず足を止めた。
「え……」
目の前に広がる光景に言葉を失う。
私の目の前にいるカップルの男性の顔に酷く見覚えがあったからだ。
背の低い彼女に腕を組まれていたその男性は私の存在に気付くと同様に足を止め、そしてサッと顔色を変えた。
「河田さん?」
女性に腕を組まれていたのは唐沢だった。
ベットリと密着した身体に見てはいけないものを見てしまったと思い、慌ててその場を後にしようとする。
「ちょ、亜紀? どうした?」
「何でもない」
突然早足になった私に菅沼が驚いていると、後ろから「河田さん!」と私を呼ぶ声が聞こえてくる。
振り返ると彼女を置いて唐沢が私のことを追いかけてきていた。
「河田さん! 待ってよ!」
「っ……」
どうして私はこんなにも男に裏切られ続けるんだろうか。
いや、唐沢の言葉なんか一瞬だけでも信じた私が馬鹿だったのか。
結構な早足で進んでいたが追いついた唐沢に腕を掴まれてしまう。