君のことは一ミリたりとも【完】
だろうと思った。あんなやつの前で弱音を吐くなんて弱点を晒しているようなものだ。
彼はオモチャを見つけたような気持ちで私の反応を見て楽しんでいたんだと思う。どうしてそこまでするのかと思うが、彼ならやりかねない。
もう少し、警戒するべきだったな。
結局仕事に上手く手がつかないまま定時を迎えてしまい、頭を悩ましているとデスクの上にコンと缶コーヒーが置かれた。
「お疲れ、無糖でいいよな?」
「菅沼」
彼はポンポンと軽く私の肩を叩く。
「病み上がりなんだから今日は残業せずに帰れよ。帰ってきてからボーッとしてただろ」
「……ごめん」
「それとも何か気になることがあるとか?」
「……」
菅沼が考えているのは昼間のことだろう。しかし私と唐沢の関係を聞かれてもなんと答えたらいいか分からない。
私たちは高校の同級生以外での関係の名前がない。そのことが急に寂しく思えた。
「アイツ、知り合い? 亜紀の名前呼んでたけど」
「まあね。あの時は連れ出してくれてありがとう」
「いや、なんかあったら話せよ。いつでも引き剥がすし」
「ありがとう」
あの時、菅沼が隣にいてくれて助かった。そうでないと私は足を止めてしまっていただろうから。
唐沢の弁解を聞いてしまってきたら、また気持ちを揺すぶられるところだった。