君のことは一ミリたりとも【完】




「(駄目だ、男に振り回されてる……)」


自分がなりたくなかった大人になってしまう。

菅沼は私が思い詰めたように黙る姿に慌て、言おうか言わないか迷っていたことを口にする。


「良かったらこの後飲みに行くか? あ、体調が悪いなら別にいいけど」

「……」

「最近悩んでること多そうだから、ちょっと話したら楽になるんじゃないか?」


彼の言葉は100%善意であることが分かる。それでも少し気にかけすぎではないだろうか。
だけどこうして心配してくれる人が周りに一人でもいるんだと思うと自然と気持ちが軽くなった。


「ありがとう、でも今日はやめとく。本調子じゃないし」

「そっか……」

「でもまた今度それは行こう。久々に菅沼と二人で飲むのもいいし」

「っ……」


すると彼は顔を一層明るくして「そうか!」と声を大きくして喜んだ。
まるで犬みたいだなと思いつつも、今はその菅沼の姿に励まされていた。

もう周りを気にするのはやめよう、その度に時間を無駄にする。
生瀬さんのことも唐沢のことも、きっと時間が経てば落ち着くはず。


『やっぱり俺と付き合おう』


あんな戯言、アイツは私以外にだって言える。
アイツはそういう男だ。分かりきっていたことなのに。


少しでもショックを受けた自分に、ショックだった。



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