君のことは一ミリたりとも【完】
昼間のを見て唐沢に近付かないでほしいなんて言われたらどうしよう。そんなつもりはなかったのにそう勘違いされているのなら誤解を解かなくてはいけない。
というよりもそのようなゴタゴタに巻き込まれるのは勘弁してほしい。
湯気の立つコーヒーをゆっくりと口に含みながら私が前を向くとずっと天真爛漫な笑顔でこちらを見てくる彼女。
「あ、あの……」
「あ、すみません! まさか今日会えるとは思ってなかったので!」
「ずっとあそこで待っていたんですか?」
「いや、丁度さっき来たところで。10分くらい待って出てこなかったら帰ろうかなって」
「……」
どうしてそこまでして、私と話したいなんて思ったんだろう。
あの時に私が見た光景こそが真実だと思うのに。
「だって、誤解を解くなら今日のうちの方がいいじゃないですか?」
「……誤解?」
私が珈琲をテーブルに置くと彼女が「はい!」と威勢良く返事する。
「河田さんって、爽太先輩の好きな人ですよね」
「……さぁ、知りませんけど」
「いやいや、あの必死に追いかける先輩見てたら分かりますって。滅多に慌てることないんで」
彼女は声を出して笑いながら私の言葉を否定するように手を横に振った。
妙な期待を抱きそうになるのを抑えるように私は直ぐに珈琲を口に含んだ。