君のことは一ミリたりとも【完】
「私と爽太先輩が腕組んでるの見て勘違いさせちゃったかなって。ごめんなさい、私と先輩は河田さんが思っているような関係じゃないので」
「……恋人でもない男女が腕を組むとは考えられないけど」
「そうですねー、なんかいつも私ノリが軽くて。先輩がお兄ちゃんみたいな感じで甘えちゃうんです。ほら、先輩って凄く優しいんです」
ちょっと、何を言っているのかが分からない。唐沢が優しい? 何処が? 私の知ってる唐沢と彼女が話している先輩とやらは別人なんじゃないか?
ていうか、そういえばアイツ優麻には優しかったし、単に楯突いてたの私だけだったのかも。
普通に考えてあの態度から私を好きになるなんてありえない。
私は珈琲を飲み干すと乾いた音を立てながらテーブルにカップを置く。
「申し訳ないけど、別に誤解なんかしてないし、貴女と唐沢がどんな関係であろうと私には関係ないことなの。それにどうせ唐沢にフォローするように言われて来たんでしょ?」
「え、ちがっ……」
「ごめんなさい、彼にはもう私に関わらないように伝えておいてもらえる? じゃあ私はこれで……」
「っ……ま、」
待ってください!と席を離れようとした私を必死に引き止めようとした彼女は目の前にあったテーブルを思いっきり強く叩きつけた。
その大きな音に店でくつろいでいた周りの人の視線が注がれ、私はそっと元の席に戻る。
「貴女ね」
「す、すみません。けど先輩に言われて来たんじゃないんです。それは本当なんです」
「……」
どうしても彼女は何か真実を伝えたいらしく、その様子を見ていると次第に無下にはできないように思えてきた。