君のことは一ミリたりとも【完】
一昨日……というと私が熱で倒れた日だ。
「なんでそれを……」
「その時先輩は会社にいて私も残ってたので。それと爽太先輩が電話口で河田さんの名前を言ってたからそうかなって」
「……」
「あの時、今まで見たことがないくらい先輩は焦ってて、持ってた記事原稿床にばら撒いちゃうし、作成してたページの記事を保存するの忘れてPC切っちゃったり」
そういえばあの夜、私を連れてラブホテルに入った唐沢はずっと持っていたノートパソコンと向かい合って仕事をしていた。
あれは単に仕事が残ってたんじゃなくてデータが全部ぶっ飛んだから?
記憶にある唐沢はそんなヘマを起こすような人間ではない。だから目の前の彼女の方から飛び出る彼のことはどうも信じがたかった。
それなのに私を助けに来た時の唐沢はいつもよりも確かに余裕がないように思えた。それが全てなのかもしれない。
「私、それ見た時に電話の相手の人が女の人で、その人が先輩の想い人なんだなってピンと来ちゃったんです」
「……」
「……私じゃ、先輩はああならないなって……ちょっと諦めもついて」
その言い方だと新田さんは唐沢に気があったと解釈出来るが、様子から見てもそれは当たりのようだった。
だからかどうも彼女の口から出る唐沢は変なフィルターがかかっていたのだろう。
「先輩、私が告白した時はフォーク落としちゃったんですよ。だけど河田さん相手だとああなるんだって」
「……それを言われて、私はどうしろって」
「どうもしなくていいです。ただ、先輩のこと信じてあげてほしいんです」