君のことは一ミリたりとも【完】




「別に会いたい人もいなかったし。それにアンタの顔見たら気分悪くなってご飯食べてる場合じゃなくなったし」


酷い言われようだなと思っているとそそくさとその場を後にしようとする彼女の背中をずっと見つめていた。だけどその背中は何処か心を躍らせるように嬉しそうで、珍しいその姿に頭を傾げた。
本当に変わらないな、河田さんは。そんなことを考えながらも今日会った誰よりも高校生の頃を思い出させてくれた人物だった。

なんだかんだ、彼女も俺の高校時代のあってはならない要素だったというわけか。
多分もう会うことはないだろうけど、元気そうでよかった。まぁ俺には関係ないことだけど。

折角の暇潰しがなくなったなと残念がっていると俺のスマホにも着信がきた。
新田加奈、と表示されたその文字に反応すると会場を出て静かなところへと移動した。












1時間後、俺は会社の前にまで戻ってきていた。


「本当にすみません! また呼び出しちゃって」


残業していた加奈ちゃんからのヘルプで会場を出た俺は頭を下げ続ける彼女に「大丈夫だよ」と微笑んだ。


「どうせ暇してたし。まさかこんな時間まで仕事してるとは思わなくて吃驚しちゃったけど」

「どうしても今日中に終わらせたくて。だけど欲しいファイルが見つからないし、急にパソコンの電源落ちちゃうし、ハプニングだらけで。まさか爽太先輩が会社まで来てくれるとは思ってなかったですけど」


本当にありがとうございます、と再び頭を下げた彼女にさっきの河田さんのことを思い出す。
河田さんこれぐらい素直だったら俺のイライラも減ったんだろうけど。

そういえばあの河田さんが嬉しそうに会場を後にするって、相手は一体誰なんだ。
昔からそれは親友の優麻ちゃんしかないって思ったけど彼女のここ数年の人間関係を知らないから無駄にモヤモヤとしてしまう。

もしかして恋人とか。ていうかあの人極度の男嫌いなのに男と付き合えんのか。




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