君のことは一ミリたりとも【完】
結局、私は何も変わってない。
だったら……
コートのポケットからスマホを取り出し、最新の着信履歴からその番号に電話を掛ける。
3コール目にして出た彼は私からの電話に珍しそうな声を出した。
《河田さん? どうしたの?》
また倒れちゃった?と洒落を含んだ彼の声は昼間の出来事のことを気にしていないようで。
しかし電話越しにそれはわざとだと分かってしまう。付き合いのせいか、少しの変化なら見抜けてしまうようになってしまった。
「今どこいるの?」
《え、帰ってて丁度駅だけど》
「あっそう、じゃあそこにいて。今から向かうから」
《ちょっ……》
河田さん!?と彼の焦った声を無視して通話を着ると私は彼の待つ駅へと足を進める。
次第にその足は足早になって、後半は誰よりも早く足を動かしていた。
駅に着くと彼は目立つ待ち合わせの場所でスマホを弄っていた。
神妙な顔つきで近付くと、私に気付いた唐沢がニコリと毒のない笑顔を見せる。
「どーしたの、河田さん。いきなり呼び出すとか珍しくない? もしかして今からご飯付き合ってくれるの?」
「違う、調子に乗らないで」
「はいはい」
彼はスマホを自分のポケット直すと背後の壁にもたれながら私の顔を覗き見る。
まずは何から言えばいいのか。一昨日急に呼び出してデータを消してしまったことを謝るか。でもそれは唐沢の不注意が原因な気もする。