君のことは一ミリたりとも【完】
ただ、新田さんの言葉を聞いてそのまま日を跨ぐなんてこと、私には出来なかったのだ。
何も話そうとしない私に気を遣ってか、彼は「そういえば」と周りを見渡すと、
「思い出すよね。ここで河田さん、生瀬に振られてたんだよね」
「……」
「あの時は吃驚したなぁ。知り合いが男に振られて泣いてるんだもん。流石に久しぶり会ったとは言え、俺が恥ずかしい思いをしたよ」
まるで俺が辱められているみたいで、と付け足した彼の言葉はまるで針のように尖っている。
学生の頃にみたいに私を傷付けるためだけに紡がれるそれは、彼の自己防衛だと知らぬ間に気付いていた。
「なんで……」
「ん?」
「……なんで、わざと私に嫌われようとするの?」
それまで余裕を持っていた彼の表情が一瞬で失われる。
その時の唐沢はきっと素の彼で、私が放った言葉が彼の意表をついたと分かった。
「憎まれ口叩いて、何がしたいの? 何が目的なの」
「……」
「……唐沢は、本当は私をどう思ってるの」
一度も向き合おうと思ったことがなかった。だけどこの瞬間に、私は彼の知りたいと思った。
それは気の迷いではなくて、やっとその時がやってきたと分かったから。
「河田さんからそんなことを言われるとは思ってなかったな」
「嘘ついたらもう一生口利かないから」