君のことは一ミリたりとも【完】
確かに、今までも出来るだけ争いを避けてきたし、こんな風に人に嫌悪感を抱くことはなかったかもしれない。
なのに河田さんに対してだけ、何故かハッキリとした「嫌い」という感情が湧き上がってくる。
「でも、嫌よ嫌よも好きのうちってよく言いますもんね」
「……加奈ちゃん」
「あ、え!? 何でそんな顔色悪いんですか!?」
何だかそれじゃあ俺が河田さんのことが好きみたいじゃん。
「(ない、絶対ない……)」
そんな自己嫌悪に陥りながらも彼女を駅の改札口まで送り届けた。
「なんかすみません、帰るホーム違うのに」
「いいよ、気を付けてね。俺は今から二次会に戻るから」
「はい、楽しんできてください!」
ありがとうございましたと今日何回目かのお礼を言うと彼女は改札を通り目の前の階段を降りていった。
それを見送りながらも彼女に言われた言葉が何度も頭の中で反復し続けていた。
嫌よ嫌よも好きのうち、ね。
「(一瞬そうかもって思ってしまった……)」
だからと言ってもう河田さんには会うことはないし、これからも関係ないけどね。
友人からの「二次会始まったぞ」という連絡とお店の地図を受け取ると帰る人の波で溢れかえっている駅の中を歩いて進む。