君のことは一ミリたりとも【完】
大人になってから、どんどんと人への興味が失われていくのが手に取るように分かった。
仕事柄その態度を外に出すわけにはいかなくて笑顔を繕っていたけれど、何処か人の道から外れていくような感覚を覚えた。
高校時代は多感だった。その中心にいたのはある一人の女の子だった。
勿論理由もなしに河田さんを嫌っているわけではない。だけどこんな俺にも譲れないものがあったのだ。
それを今更掘り返したってどうにかなる話じゃないけど。
本当は今日、もしかしたら当時のことを思い出して変われるかと思ったけど何も思うことはなかった。
きっとあの時に感じたことはあの場所で、あのメンバーで、あの時を過ごしたからだ。
分かったフリして、何も分かってなかったじゃないか。
「(阿呆らしい……)」
そう足早にお店に向かっていた時だった。
視界に突然カップルの喧嘩が入ってきたのだった。
夜に、しかもこんな人が多い駅の構内でなにをやっているんだか。
知らない他人の行動に呆れながらもその場を後にしようとすると聞き覚えのある声が耳に届いた。
「どうしてですか!? 何でっ……」
それはさっきまで俺のことを罵っていた声と一緒のように聞こえた。
まさか、と後ろを振り返って見てみるとありえない現場に出くわしてしまい、俺は言葉を失った。
喧嘩していたカップルの女性が、河田さんだった。
「は、何で……」
彼女は大量の涙を流していた。