君のことは一ミリたりとも【完】
「後悔、した。今日」
「今日?」
「……優麻の顔を見たら、やっとね」
口にしていた珈琲は無糖だったが、何故か穏やかな気持ちになれた。
「生瀬さんとのこと、"後悔"って言葉で括ったら負けだって心の何処かで思ってた。それを口にしたら、幸せだった時間まで否定しちゃうんじゃないかって」
「……」
「でも今日、優麻に会って、もし私が不倫してたことを知ったらこの子は悲しむんじゃないかなって。悲しんで、でも私は悪くないよって慰めてくれるんだろうなって」
「そうだね、優麻ちゃんはきっと河田さんのことを責めたりはしないよ」
そういう子だから、私と唐沢の中の優麻への気持ちは同じなのだと分かる。
裏表がなくて、いつも笑顔で、必ず自分より他人のことを優先する。大事な人は傷付けない。
それが当たり前にできる子。
「いい子なの、優麻には正直にいたい。でも、こんな秘密を持った時点で優麻の目を真っ直ぐに見られない」
「……」
「馬鹿だったなって思った。就職して優麻に会えなくなって、寂しい思いをしていたのを生瀬さんに埋めてもらってた。アンタの言う通り、私依存症なのよ。こんなことにも今更気が付いた」
気付いた時にはもう遅かった。
「……後悔してる。生瀬さんと出会って、彼を愛したこと」
ハッキリ口に出して言うと私の中にあった彼への未練が完全に消えたように思えた。