君のことは一ミリたりとも【完】
別れてから生瀬さんに言われたことだったり、彼への態度、色んなことで悩まされてきた。
だけどもうそれも終わりだ。私は彼に何を言われても揺るがないし、それにどんな態度を取られたってもうその手を取ったりはしない。
ちゃんと前に進むと決めたから。
「一番の敵は生瀬じゃなくて優麻ちゃんってことかな。俺が生瀬のこと忘れせるって思ってたのに」
「え?」
「何でもない。だけどそう気付けてよかったんじゃない? 河田さんの欠点が克服されて」
それは本音なのか建前なのか。口調に全く表情の色が出ない唐沢が言うとどちらの意味で言われているのか分からなくなる。
だけど今回のことで暫くは平凡に暮らしたいと思う。これまでも平凡だと思っていたけれど、それ以上に静かに暮らしていきたい。
「それに依存したいなら俺にしたらいいよ。俺は女の子でもないし既婚者でもない。依存して全く問題がない」
「アンタが相手っていうのは最大の問題なんだけど。言っとくけどそんなに簡単に人に依存なんかしないから」
「本当、妬けること言うね」
彼は手に持っていたカップの中身を全て飲み干すと「それじゃあ」と、
「只今過去の恋愛に絶賛後悔中の河田さんに俺から一言」
「……」
「……後悔するぐらいならするんじゃねぇよ」
普段おちゃらけた口調が多い唐沢がこの時だけは声を低くして呟いた。
珈琲を飲もうとしていた私の動きが止まる。