君のことは一ミリたりとも【完】
軽く苦笑してみせた彼は「はぁーあ」と大きな溜息を吐いて、
「でもさ、仕方がないよね。しちゃったものはしちゃったんだし、後悔したとしてもしてしまったことは変わらないわけだし。それを分かってるからあの人は実際に俺に会いに来てくれて、善意で引き取ろうとしたんだろうけど」
「……それで、どうしたの?」
「付いていかなかった。爺ちゃんたちに話したら『好きにすればいい』って言われて。正直ずっとここにいるのも迷惑かなって思って家を出て行こうと思ったんだけど」
でも、
「思いの外、居心地が良かったんだよね。聖がいて、優麻ちゃんがいて、河田さんがいて」
「……」
「もし母親について行ったら転校してただろうし、こっちを選んで良かったよ。結果いい3年間を過ごせたわけだしね」
唐沢はいつも心の底が見えなくて、何を考えているのか理解不能だ。
だからそんなことがあったなんて、一応高校の頃顔を合わせていたはずなのに全く知らなかった。
いや、感じ取らせなかった。この人の性格上、他人が自分の領域に入って来られるのを拒むタイプの人間だから。
いつも誰にも感じ取らせないように鉄壁の笑顔を顔に貼り付けて、その場に馴染んでいた。
私だったら出来ない。一日で疲れてしまう。
だけど彼にはそうするしかなかった。それが彼の行き方だったから。
「つまり何が言いたいかというと、後悔するんなら不倫なんかするもんじゃないし、でもしちゃったものは仕方がない。だからこれから何をするべきなのかを考えて頑張りましょうってこと」
「……」
「……俺も、河田さんの力にはなるから」