君のことは一ミリたりとも【完】
まさかこの男に『力になる』と言われる日がやってくるとは。
だけど今日はその言葉が今までに貰った言葉の中でも特別嬉しく思えた。
友達も少ないし、恋人もいなかった。圧倒的に味方の少ない私には、その言葉は十分すぎた。
「な、んなの。急に、キャラ変わりすぎじゃない?」
「あは、今俺好感度爆上げ期間だから。ちょっとずつでも昔の失態を回復していかなきゃね」
「……そこまでして私と付き合いたいの?」
「え、うん」
けろりと答えた唐沢に私は「なんでそこまで……」と悩みは尽きない。
私、この男に好かれるようなこと何かしたっけ? 全然覚えていない。
けど、前ほどこの男は嫌いじゃない。好きでもないけど。
「……」
いつのまにか隣のカップルはいなくなっていた。
「今日はごめん」
掠めるような小ささの声を掬い上げた唐沢は「うん」と頷いた。
何が、と言わなくても彼は何となく分かっていたようだ。
優麻に唐沢と付き合っていると言えなかったこと。勿論直ぐに言えることじゃないけれど、一瞬だけ彼が傷付いたように見えた。
今思い返してもデリカシーがないように思える。あんなに強く言わなくても良かった。
「最終目標は優麻ちゃんに紹介してもらうことにしよう」
「勝手にすれば?」