君のことは一ミリたりとも【完】



唐沢はいつもくだらない内容をLINEで教えてくる。それを見る度に「出版社って結構暇なのか?」と疑問に持つ。
いつも忙しなくしているイメージがあるが、のらりくらりとしている唐沢のイメージとは合わない。


「亜紀、珈琲買ってきたぞ」

「ありがとう、お金これ」

「いいって! これぐらい!」


ハツラツとした笑顔を浮かべる菅沼に「ありがとう」と言うと彼の手から缶珈琲を受け取る。
菅沼は彼が買ってきた缶珈琲を開けて飲む私を眺めながらふと、


「亜紀、最近明るくなったよな?」

「え、そうかな」

「顔色もだけど、性格も。というか丸くなった? とにかく元気そうでよかった」

「……」


そういえばこの間まではずっと顔色が悪いと言われていたっけ。あの頃はまだ生瀬さんのことが受け入れられなくて、精神面でもアンバランスだったから生活習慣も乱れていたし無理もない。
ここ最近は朝昼晩としっかりと食事も取っている上に仕事も早めに終わるので家に帰ってからゆっくりと眠りにつけている。


「今までお前のことを腫れ物扱いしてた女子社員たちも話しかけやすくなったって。なんで俺に言ってくるのかね」

「そっか、それなら良かった」


明確な理由はないが自分の欠点だった部分が徐々に直せているのであれば良かった。
ありがたく珈琲を頂いていると彼は急にそわそわした様子で話し掛けてくる。




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