君のことは一ミリたりとも【完】
「それで、さ。良かったら何だけど今度休みの日に一緒に出掛けないか?」
「出掛ける? 何か用事でもあるの?」
「いや、用事っつーか。その……」
珍しく頰を赤くしている彼を見て私は何となく彼の気持ちを察してしまった。
菅沼にはいつも良くしてもらっているし、あまり突き放すようなことは言いたくないけれど、でも早めにこういうのはハッキリさせてしまった方がいい。
「私さ、最近彼氏出来たんだよね」
「へ、へー……って、彼氏!?」
「そう」
思いがけぬ言葉に彼の目が飛び出しそうなくらいに吃驚している。
しかし暫くして状況を悟った菅沼は「あはは」と乾いた笑いを漏らしながら頭を掻く。
「そ、そっかー。知らなかったなぁ。おめでとう」
「ありがとう」
「……それって、この間会社の前で会った奴?」
そういえば唐沢と菅沼は顔見知りではあったんだっけ。
隠す必要もないと思うので素直に頷く。
「そうだよ」
「そう、か。好きだったんだな」
「ううん、全然」
「え?」
全然好きじゃない、そう言った私は何故か笑っていた。