君のことは一ミリたりとも【完】
私は昔、そういうところが気に食わなかった。口だけでは人が嬉しがるようなことを言って、心の底では自分に誰も寄せ付けないようにバリアを張っている。
だから私は彼の言うことは信じなかったし、ずっと嫌っていたし向こうも私のことをよく思っていなかった。
しかし今こうして彼から快い対応を受けることによって自分の警戒心が徐々に解かされていくことのを感じる。
またからかわれているだけかもしれないのに、彼の空気感に飲み込まれていっている気がする。
駄目だと思うのに、この人は私のことを裏切らないんじゃないかと信じてしまいそうになる。
もう誰かに依存なんかしてはいけないと分かっているのに。
「美味しそう、ありがとう亜紀さん」
「ただの焼きそばだけど」
「女の子の手料理とか久しぶり。あ、この間優麻ちゃんの料理頂いたな」
「アレとは比べないで」
優麻の手料理はもはやプロの料理に近い。食材も豪華だし、見た目だって華やかなものに拘っている。
確かに一応彼氏に出す料理として焼きそばというのは女子力のかけらもないな。慌てて付け加えた千切りキャベツのサラダが更に貧相な食事を引き立てている。
「いただきます」
焼きそばを口に運ぶ彼を見つめていると「美味しい」の表情を緩ませて何処か安心する。
「焼きそばくらい誰でも簡単に作れるでしょ」
「今度俺の料理も食べさせてあげる」
「出来るの?」
「一人暮らし歴長いから」