君のことは一ミリたりとも【完】
彼にきっぱりと振られ、関係を元に戻したのにどうして今頃、という気持ちは勿論ある。
しかし今彼がどうしてそんな行動を取るのか理由が分からない。
奥さんとも上手くいっていなくは思えないし、そもそも子供が出来るからという理由で別れたはず。
子供が出来たことを知ったら間違いなく私から別れを告げていただろう。それを避けるために自分から振ったんだとばかり考えていた。
何か彼を触発せるようなことがあったのだろうか。
唐沢は少しの間思案顔を浮かべ、そしておずおずと話し出す。
「少し俺のせいでもあるかもしれない。前に取材で生瀬の会社を訪れた時、亜紀さんと付き合ってることを生瀬に伝えたんだ」
「……は?」
私は思わずテーブル越しに唐沢の胸ぐらをつかんだ。
「初耳なんだけど?」
「だ、だって言ったら亜紀さん怒るじゃん。現に今怒ってるけど」
「なんで、言うの。言う必要ないでしょ」
「勘繰ってきてたんだよ、生瀬が。俺たちのこと」
その言葉に手の力を緩めると彼は私から離れ、安堵の表情を浮かべる。
「もしかしたら亜紀さんが他の男のものになって焦ってるのかもね。自分から手放したくせに」
「……」
「……亜紀さんはさ、腹立たないの? 今更未練たらたらな姿見せられて」
今更、そうだ。本当に今更なんだ。
あの人に別れを告げられて、私はどん底にまで落ちたんだ。