君のことは一ミリたりとも【完】
好きだよ、 愛してる、結婚しよう。どれも偽りの台詞だった。そんな言葉を聞いて私は馬鹿みたいに信じてた。
そのことを思い出す度に自分がどれだけ安直だったか、都合のいい女だったかを思い知らされる。なりたくない大人に自分がなっていたことを悔やんでも悔やみきれないほど後悔した。
だからもう、あの時みたいにはなりたくない。
「正直、生瀬さんの気持ちを知らないから今の段階では何とも言えない。けど、一つ言えるのは今生瀬さんに何を言われたとしても私はどうもしないし、彼についていくことはない」
「……」
それまでずっと難しそうな顔をしていた唐沢がそれを聞いて漸く安心したように笑顔を見せた。
口に出しても自分の心の中で矛盾は起こらなかった。これが私の本音なんだ。
誰かを好きになった、彼のことを嫌いになったではなく。
ただ単純に、生瀬さんのことは終わったんだ。
「けど、心配だよ。大阪で一泊二日か。流石に部屋は違うにしても何もないことを祈るしかないか」
「夜もきっと接待があるだろうし、気にしてる暇なんてないよ」
そうだといいけどね、と彼はノートパソコンを開くと何やら調べ物をしている。
するとふと顔を上げて「そういえば」と、
「生瀬って奥さんと仲悪いの?」
「……そんなことはないと思うけど」
「そう、不倫するってことは夫婦関係に不満があったってわけじゃないんだ」
でも確かに生瀬さんは職場でも私の前でもあまり奥さんのことは話したがらない印象があった。
それは仕事とプライベートをしっかりと分けているからだと思っていたが。
唐沢はタイピングしていた指を止めてパソコンの画面を見つめる。