君のことは一ミリたりとも【完】
「確かに生瀬って前に勤めていた会社の社長令嬢と結婚したんだよね」
「そうだけど」
「今の会社の出資金を令嬢の父親が肩代わりしたとか。結構気に入られてんだね」
「……そうだけど、何でそんなことまで知ってんの?」
「俺の仕事、そういう情報を集める仕事だから」
嬉しそうに話す彼に「褒めてないんだけど」と一言文句を垂らした。
そういえば昔お酒を飲んだ時にポロリと前の会社に勤めていた時のことを話してくれたことがあったような。
「生瀬さん、元々起業する意思があったみたいなんだけど前の会社では結構重宝されてたみたいだから早いうちに退職出来なかったって言ってた」
「確かに有能な人材が外に流れるのは会社的にも阻止したいよね」
「それで社長に相談したら娘さんとのお見合いを勧められたって」
「退職させてやる代わりに自分の娘と結婚させて何とか繋がりは持たせようと思ったってわけか。生瀬ほど仕事が出来てメディア映えもする人間が辞めたってなると会社のイメージも悪くなるから、どうしても生瀬が設立する会社も自分の傘下に入れたかったんだね」
だから望んだ結婚じゃなかった。そう、彼は何度も私を説得した。
好きで結婚していないから、本当に好きなのは私なのだと。今思えばあの言葉を素直に信じてきた私も私で愚かだった。
好きじゃなくても、嫌いな人とは結婚なんてしない人だって分かってた。
一番居心地のいい場所は私じゃなくて彼女の隣なのだと、別れてくれそうにないあの人を見てて思った。
唐沢はパソコンを閉じるとテーブルに肘を付いて私を見る。
「だとしたらやっぱり心配だなぁ。向こうが何を考えてるか分からないんじゃこっちも動くに動けないからね」
「さっきも言ったけど、私自分の身くらいは自分で守れるから」
「本当格好いいデスネ」