君のことは一ミリたりとも【完】
私の指摘に彼は返事をせず、少し頰を赤らめてニコニコと微笑んでいる。彼なりの照れ隠しなのだろう。
その間抜けな姿に思わず吹き出すと「あ、酷い!」と恥ずかしそうに声を荒げる彼。
私も、唐沢のそういうところは可愛いと思う。
出張の一日前、出勤すると菅沼が私に向かって両手を合わせて謝ってきたので何事かと思った。
「亜紀、悪い。出張代わってもらって」
「いいよ、それに次のプロジェクトのリーダーなんでしょ? 凄いじゃん」
「いやぁ、色んな仕事受け持ってるから全部やれるか心配で心配で」
確かに今の菅沼に出張に行く時間はないだろうから誰かが代わってあげないと駄目だったのかもしれない。
そうなると彼と同期である私が適任だったというのは何となく予想がついた。
「たまに社長の出張付いて行くけど関西の大手の企業とも一緒出来るし、亜紀もパイプ繋いでいた方がいいと思うぞ」
「そこまで気が回らないかもしれないけど、ありがとう。お土産買ってくるね」
「お、待ってます」
大丈夫、きっと何事もなく終わるはず。
そう自身に言い聞かせてその日の仕事を終わらせた。
翌日、早朝の新幹線の改札の前で待っていると予定より3分遅れて生瀬さんの姿を現した。
普段よりもかっちりと整えたスーツと黒のコートを身に纏う彼は群衆の中を歩いていてもその姿を見つけることができるぐらい他人とは違ったオーラがある。