君のことは一ミリたりとも【完】
「あー、もう!」
俺は一度その場で強く地面を蹴ると体ごと振り返り、そして泣いている彼女の元へと向かった。
まるで失っていた感情を取り戻すかのように、必死になって人を掻き分けて前に進む。
見えてきた男の顔は弱っている女に手を出す気満々な顔していて心底腹が立った。
「汚い手で触んないでくれる?」
彼女の肩に回していたその腕を掴むと男と一緒に河田さんがこちらを振り返った。
そして俺の顔を見ると吃驚した顔で口を開けた。
「なんでここにいんの」
「……さっきぶり」
泣き腫らしたその目が俺から離れないのを見て心の中の焦りが消えた。
若い派手な男は突然現れた俺に対して「男いんのかよ」とさぞかしガッカリした様子とで河田さんから離れていった。自分は特別喧嘩も強いわけでもないから物分かりのいい若者で良かったと安心する。
「河田さん」
「……」
彼女は泣いているところを俺に見られたことが恥ずかしいのか、目元を拭うとすぐさま俺から離れようとくる。
その態度が頭にきて、「ちょっと待ってよ」と肩を掴んでこちらに顔を向けさせた。
「助けてくれたお礼とかないわけ?」
「……別に助けて欲しいとか言ってない」
「はぁ? じゃああのまま知りもしない男に何かされても良かったのかよ」
「アンタに関係ないでしょ」