君のことは一ミリたりとも【完】
「悪い、向こうに着くまで寝る。また何かあったら起こしてくれ」
「はい、分かりました」
「頼んだ」
相当疲れていたのだろう、そう返事をして数秒のうちに彼は寝息をつき始めた。
きっと夜遅くまで仕事をして家に帰っても充分な睡眠も取れていなかったんだろう。会社の中でも圧倒的に生瀬さんが仕事量が多く、夜遅くまで職場に残っていることが多い。
どんな小さな仕事でも完璧に、そしてクライアントに寄り添って取り組む。
だからこそ彼はこの業界で生き残り、そして重宝されてきた。
「(私も今日会う企業の情報頭に入れとかなきゃ……)」
鞄から昨日まとめた書類を取り出し目を通していると、暫くしている左肩にズシリと体重がかかる。
「生瀬、さん?」
私の肩に頭を寄せてきた彼の名前を呼ぶが返事がないところを見るとかなり深く眠りについてあるらしい。
その幼げな寝顔を見て悩んだ挙句、私は起こさないことを選んだ。
本当に疲れていたんだろうなぁ。
「(この人のことが好きだった……)」
仕事では頼りになって、プライベートでは甘えてくれる大人で狡い人。
仕事でもプライベートでも、一番近くで支えるのは自分だと思っていた。
もし、出会った時に生瀬さんが独身だったら、二人が結ばれていた未来はあったのだろうか。
そういう未来を夢見て一人でベッドで過ごす夜が幾度となくあった。
好きだった。どう足掻いても過去の感情でしかない。
このどうしようもない人を愛していた。