君のことは一ミリたりとも【完】
お腹の音を聞かれるほど恥ずかしいものないだろう。早くホテルの部屋に帰ってコンビニで買ったカップラーメを食べるつもりが。
するとひとしきり笑った彼が私のことを見てゆっくりと微笑む。
「何処かで食べていくか。俺も腹が減った」
「え、でも……」
「明日もあるし、力を付けないとダメだろう。丁度向こうにお好み焼きの店があるから行くか」
「……」
はい、と頷くと彼は横断歩道の方へと足を進めていった。
付き合っていた頃、彼が残酷なくらい優しかったことを思い出す。
「(さっきからずっと昔のことばっか思い出してるな、私……)」
捨てたと思ってたのに、全然捨てられてなかったじゃないか。
そのお好み焼き屋さんは深夜近くまでやっているからか、この時間に入ってもお客さんは多く、ほとんどの席が埋まっていた。
席についてメニューを見ていると彼が店員さんを呼び止める。
「ビール頼むか」
「え、いいんですか?」
「いいよ、好きなものを頼んでいい」
私はその言葉に甘えて生ビールを頼むと彼も同じものを頼んだ。
一通り注文を終えると運ばれてきたビールのジョッキを合わせる。
「じゃあお疲れ。明日もよろしく」
「お疲れ様です」