君のことは一ミリたりとも【完】
今のところ機材の搬入のスケジュールもうまくいっているし、このままなら無事にイベントは終われそうだ。
規模の大きいイベントだし、もし成功できれば会社としての功績も大きいだろう。今まで生瀬さんの名前に頼っていた受注以外の仕事も増えていくはず。
周りから見ても私が気を張っているのが目に見えて分かったのか、菅沼は「あんまり気張って空回りすんなよ」と軽く背中を叩いた。
同期のくせにやけに頼り甲斐がある。そんな複雑な思いを浮かべながら会場を後にしようとしたとき、私は背中に違和感のある視線を受けた。
「……?」
不思議に思って後ろを振り返ったがそこには会場周りに植えられた街路樹があるだけで人の影は見つからなかった。
「亜紀、どうかしたか?」
「……ううん、気のせいだったかも」
誰かに見られているようなそんな気がしたんだけど。今までは一切感じたことのなかった視線だった。
自分がただ人の視線に敏感なだけなのかもしれない。そう思い込むようにして菅沼と二人で会社へと戻った。
唐沢には前から少しの間仕事が忙しくなると伝えてあったこともあって、気を使ってくれているのか食事などの誘いは減っていた。
その代わりと言っては何だが毎日のように用事もないのに連絡が来て、「あまり無理をしないように」と釘を刺されていた。
私が忙しいように向こうだって仕事で遅い時間に家に帰っているくせに。年間を通しての忙しさで言ったら彼の方が格段と上だろう。
お風呂から上がり髪の毛を拭いていると脱いだ服に包まれていたスマホがピコンと音を鳴らす。
【今何してる?】