君のことは一ミリたりとも【完】
遂に私の部屋の前で止まった足音。しかしインターホンを押すでもなく、ただそこに立ち尽くしているだけ。
これでもし唐沢で「サプライズで来ちゃった〜」なんて抜かされた時には半殺しにしてしまうかもしれない。そんなことを考えながら私は恐る恐る小さなドアスコープに顔を近づけた。
と、
「っ……」
視界に入ったのは全身黒の服装に黒いマスクを身に付けた人物。長い前髪から覗いた鋭い目がスコープ越しに私と目が合った。
慌てて後ろに下がると動揺して乱れた心臓を落ち着かせる。一目で分かる、このドアの向こうにいる人物は只者ではないと。
もう一度スコープを覗く勇気がない私はその場に立ち尽くすことしか出来ず、ただひたすらに玄関扉を見つめていた。
すると手に持っていたスマホが震え、素早く確認すると唐沢から返事が届いていた。
私は会話をぶった切るように通話ボタンを押すと震える手をもう片方の手で押さえながら耳元へと持っていった。
早く、早く出て。そう思えば思うほどに柄にもなく目から涙が溢れ出しそうになった。
《もしもーし、亜紀さん? もしかして俺が恋しくなっちゃった?》
「……」
《亜紀さん?》
相変わらずの軽い口調で電話に出た彼だったが、私が普段と様子が違うことに気付くとその声が一層真剣なものになった。
《亜紀さん? 大丈夫? 何かあった?》
「っ……ドア、の……」
《ドア?》
「……玄関ドアの向こうに、知らない人がいて……」