君のことは一ミリたりとも【完】



通話越しでも伝わってしまうくらいに私に声は震えていて、すぐさま状況を把握した唐沢は「今からそっち行くから待ってて」と告げた。


《絶対外に出ないで。部屋のカーテンも閉めて、安全なところにいて」

「っ……分かった」

《15分……いや、10分で着くから》


向こうで車の鍵を拾ったような鉄がぶつかる音がした。唐沢が急いで私の元へ向かってくれているのだと思うと氷に包まれていたように硬く動かなかった身体が一気に和らいだ。
運転するから一先ず切るね、と唐沢との通話を終えるとゆっくりと身体を動かすようにしてまずは彼に言われた通りに部屋のカーテンを確認しにいった。

カーテンが閉まりきっていることを確認すると今度はベッドの布団に潜り込んでその中でぎゅっと身体を縮める。
まだあの人が部屋の前にいるかもしれない。見た感じ男性のように見えたが、一体誰なんだろうか。

目の裏にこびり付いているように、目を閉じるだけでトラウマのように蘇る。
そう両膝を抱えて沈黙に耐えること10分、また玄関先で物音が聞こえピクリと身体が反応した。

すると一緒にベッドに投げていたスマホが鳴り、確認すると唐沢からの着信が来ていた。


《亜紀さん? 今部屋の前着いたけど》


スマホから聞こえた声に顔を布団から覗かせると脚を床に付けてぎこちない動きで玄関へと向かう。


「亜紀さん! 俺だよ、大丈夫?」

「っ……」


唐沢の声、分かっていてももう一度ドアスコープを覗き込むには覚悟がいった。
恐る恐る覗き込んだスコープから見えたのは珍しく取り乱した表情の彼で、私は玄関の鍵を回してゆっくりとドアを開いた。


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