君のことは一ミリたりとも【完】
「亜紀さん! 良かった、本当に大丈夫?」
「……」
唐沢の顔を直接見た瞬間、自分でも驚くくらい冷静を取り戻した。
昔はあんなにも見るだけでも嫌がっていたのに、いつから彼は私にとって安心する対象に変わったのだろうか。
そんな自身の心情の変化に戸惑いながらも「大丈夫」と呟き彼から目を離した。
「というかごめん、こんな時間から呼び出して」
「俺が来た時には外に誰もいなかったけど……」
本当はあの不審者と唐沢が鉢合わせしてしまったらどうしようと心配だった。
「何だったんだろう。見た感じ普通の人のようには見えなかった」
「……」
「唐沢?」
「あ、いや……とにかく亜紀さんが無事でいてくれて良かった」
ようやく安心したようにはにかんだ唐沢に笑顔に少し大袈裟だったかもしれないと反省する。
もしかしたら部屋を間違えただけなのかもしれないし、唐沢だって仕事で疲れてるだろうにここまで車を走らせて駆け付けてくれた。
「取り敢えず上がって。お茶入れる」
そう言って彼を部屋の中へ招き入れようとした時、ドアノブを掴んだ自分の手が痙攣しているかのように震えているのが見て分かった。
そしてそれを近くで見ていた唐沢も気付いたのか、視線を私の顔へと向ける。
「あ、いや……これは……」