君のことは一ミリたりとも【完】
いい歳した女がこんなことで怖がっていてどうする。というか、私ってこういうキャラじゃなかったはず。
何事もなかったかのように鍵を閉めてリビングへと向かおうとすると急に唐沢に腕を引っ張られ、気付けば彼の腕の中にいた。
「ちょっと!」
「大丈夫、もう俺が来たから大丈夫だよ」
「……」
狡い。今までそんな優しい声で私に話しかけたことなかったくせに。
「(こいつだけには弱いところ見せたくなかったのに……)」
この男と再会してからずっと、彼の前でだけ調子を崩して格好が付かなくなる。
「馬鹿、やめてよ。子供みたいでしょ」
「亜紀さん子供じゃん、すぐ俺に対して意地張るところとか」
「あんたよりは大人」
「いやいや、絶対俺の方が大人だね」
多分この会話が一番子供なんだろうけど。
だけど彼とのやりとりに安心感を覚えている私が、一番馬鹿だ。
なかなか私の身体を離そうとしない彼に「ちょっと」と、
「本当にもう大丈夫だから離してくれる?」
「本当かなぁ」
「大丈夫だってば」