君のことは一ミリたりとも【完】
彼は少し黙った後に「心配だなぁ」と私の頭を優しく撫でた。
その含みある言い方に少し違和感を抱いたが、次の彼の発言でそれは一気に拭われた。
「暫くの間俺のとこ住まない?」
「……は?」
身体を離して顔を上げると彼が真剣な表情で私のことを見つめていた。
「え、どういうこと?」
「もし亜紀さんが言ってた男がストーカーだとして、家がバレてるってことでしょ」
「ストーカーって……」
「今まで誰かにあとつけられてたとか不審な視線を感じたことない?」
「……」
そういえば今日仕事で外に出てきた時、ふと視線を感じて振り返ったが誰も立っていなかったことを思い出した。
すると私の表情だけで察したのか、彼は「ほら」と、
「このマンション、セキュリティーも甘いし危ないよ。今日は無事で済んだけど、これからはどうかは分からない」
「大袈裟すぎでしょ。まだ直接何かされたわけでもないし」
「でも亜紀さんは今日、怖くて俺に電話をかけた。それはれっきとした精神的な被害だよ」
「っ……」
唐沢の言っていることは最もだった。もしものことを考えたらここを離れて何処か安全なところに移動した方がマシだろう。
今回は私が相手だっただけで、これがもし優麻だったら私はすぐにマンションを離れることを忠告したはずだ。