君のことは一ミリたりとも【完】
でも、
「大丈夫? 爽太」
「え?」
「何か困ってる?」
「……」
心配そうに俺の顔を覗き込む親友に「大丈夫だよ」と偽物の笑顔を貼り付ける。
後ろでは彼女と楽しそうに話す優麻ちゃんの声が響いていた。
生瀬と亜紀さんのスキャンダルを握っているゴシップ週刊誌の記者の名前は小林と言った。
どこから仕入れたのかも分からない俺の電話番号に掛けてきては情報の進捗を尋ねてくる。
約束の日にちまであと3日、俺はまだなんの情報も掴めていなかった。
その日、定時で仕事を終わらせるとノートパソコンを鞄に詰め込み、足早に退社しようとする。
「あれ、先輩今日早いですね。もしかして彼女さんとデート?」
「んー、それならもっと浮かれてるはずなんだけどね」
「へ?」
加奈ちゃんから掛けられた言葉に軽く返事すると彼女の見えないところで深く溜息を吐いた。
慌てて乗ったエレベーターの中でスマホを確認すると例の男からの連絡が届いていた。
「(返事おせーよ)」
らしくもない舌打ちがエレベーター内に一つ落ちる。