君のことは一ミリたりとも【完】



目的地であるファミレスに到着すると人数を聞いてきた店員に待ち合わせだと告げて店内を見渡した。
すると一番隅っこのテーブル席に全身黒の服装で店の中なのにフードを被っているいかにも怪しい男が座っていた。

迷いなくその男の元へと足を進めると黙って向かいの座席へ腰を下ろす。


「あれ、思ったよりも早かったね」


戯けたように舌を見せて笑ったフード男は酷く色白で、目ジワが多く、微笑むだけで相手を不安にさせるような人間だった。
敢えて男の顔を直視せず、視線をメニュー表に向けながら深い溜息と同時に言葉を吐き出す。


「今まで何してた。全く連絡が付かなかったのはなんで?」

「やだな、"ソウ"ちゃんってば。離れてる時まで俺のことを束縛するつもり?」


俺の質問に真面目に答える気がないその男の名前は舘(たて)といい、以前から個人的な仕事を依頼していた。
所謂情報屋と呼ばれる職業なのだが、舘という名前も偽名だろうし、掴み所のない存在であることは確かである。

まあいい、と注文を聞きにきた店員にホットコーヒーを注文すると話を切り上げ、名刺ケースからある一枚を取り出してテーブルの上に置いた。


「この女、またはこの出版社について知っていることを全部話してくれる?」

「あれぇ、そっちなんだ?」

「そっち?」

「ここに歯向かう気なんだ?」

「……」


カップに入ったホットコーヒーにテーブルサイドに置いてあったスティックシュガーを並々と注いでいく舘の言葉に確信する。

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