君のことは一ミリたりとも【完】
同時に彼が歪な笑みを俺へと向けた。
「ソウちゃん、最近カノジョ出来たらしーね」
「……お前どこまで知ってる?」
「言えるのはソウちゃんよりも、ってことかな」
どうやら彼は俺が例の週刊誌の編集者から生瀬の不倫の件で脅されていることを知っているらしい。
なら話は早い、とテーブルに置かれた名刺を指でトントンと叩く。
「ここの情報を売れ」
「それはソウちゃんでも難しいかなぁ」
「なんで? 金か?」
「まぁ、そゆこと」
4本分のスティックシュガーが注がれたコーヒーを口へと運ぶ男。
記者の小林からは生瀬のスキャンダル以上の大きなネタを掴んでこいという脅しだったが、元からその指示に従うつもりはなかった。
きっと指示に従えば今度は更なる難題を突き付けてくるだろう。あれは人を一生脅し、痛ぶる性分の人間だ。
それならば先に向こうの情報を掴み告発するのが手っ取り早い、そう思い小林に会った日から舘とコンタクトを取っていたのだが彼から返信が来たのはつい先程のことだった。
舘はフードの隙間から名刺に書かれてある出版社を盗み見ると目を細める。
「ここ、結構しぶといよ。相当権力がないと落とせないかもね」
「……」
「まぁ、揺するだけのネタがないこともないよ。でもソウちゃんがそれに見合った報酬を用意できるかどうかだけど」