君のことは一ミリたりとも【完】
テーブルに俺が頼んだ分のホットコーヒーを店員が置いて帰ったのを見計らうと小さな声で「いくらだ?」と尋ねる。
するとダボダボの黒のパーカーから指差しを出した舘は血が通っていないような青白い左手の指を5本立たせた。
「待て、高すぎる。おかしいだろ」
「ソウちゃんが思っているよりも事態は複雑ってことだね」
「……お前、まさか」
最も面倒である解を一度は強く否定したかったが、どうやらそれで間違いないようだ。
「向こうにも売ってんのか?」
「俺は自分の仕事をしただけだよ。自分に利益があるんならそれでいいってソウちゃんも知ってるじゃん」
「……」
つまり今まで連絡が取れなかったのは偶然ではなく、あの記者から俺との接触を制限されていたからか。
ここで舘に大金を支払って向こうの悪事を暴こうとすれば、今度はこの男を処理するのが難しくなる。それに彼が頑なに一つもネタを漏らさないのは彼にとってこの勝負の行方は明白と言えるものだから。
そこに溶け切れなかった砂糖を残したカップを置くと彼は酷く満足げに口元を歪ませた。
「まぁ、唯一話せることを言うと向こうはまだソウちゃんに対してそんなに無慈悲ではないよってこと」
「……どういう意味?」
「さぁ? そこは自分で考えてもらわないと」
自分を落ち着かせるためにブラックコーヒーを口元へと運ぶ。するとジャケットのポケットに突っ込んであったスマホが軽く振動する。